恋愛詐欺とは、SNSやマッチングアプリなどで知り合った相手の恋心を利用して、金品をだまし取る行為です。この行為は一般的に「ロマンス詐欺」や「結婚詐欺」とも呼ばれています。
刑法上、「結婚詐欺罪」という罪名は存在しませんが、これらの行為は「詐欺罪(刑法246条1項)」として処罰されます。詐欺罪が成立するためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
恋愛詐欺の場合、「結婚する意思がないにもかかわらず、結婚する意思があるように装い、相手が結婚するものだと騙された状態で、嘘をついて相手からお金や財産を奪い取る行為」が詐欺罪に該当します。
単に交際中に別れを切り出したり、結婚の約束を破ったりするだけでは詐欺罪は成立しません。初めから騙す意図があったことが立証されなければならないのです。
マッチングアプリやSNSでの出会いを悪用した詐欺の手口は年々巧妙化しています。警察庁の調査によると、被害者がロマンス詐欺師と最初に接触したツールとして最も多いのがマッチングアプリで、男女ともに約4割を占めています。
主な手口には以下のようなパターンがあります。
1. 投資勧誘型
2. 緊急事態型
3. 高額プレゼント型
詐欺師は通常、比較的早い段階で交際を申し込み、急速に関係を深めようとします。これは、恋愛感情を利用してお金をだまし取ることが目的だからです。また、直接会うことを避け、常に理由をつけて対面を先延ばしにするのも特徴です。
結婚詐欺で逮捕された事例を見ると、詐欺罪がどのように適用されるのかが具体的に理解できます。以下に実際の逮捕事例をいくつか紹介します。
事例1:女性から1,000万円を騙し取った男性の逮捕
ある男性は会社経営者を名乗り、「新規事業のためにお金が必要だ、出してくれたら結婚する」などと言って女性から400万円を詐取しました。さらに別の女性には「会社の廃業に伴いお金が必要だ、貸してくれれば籍を入れる」と嘘をつき、約600万円を騙し取りました。この男性は詐欺罪で逮捕されています。
事例2:海上保安庁職員を装い2,000万円を騙し取った男性の逮捕
ある男性は海上保安庁の職員になりすまし、偽名で女性と交際し、挙式まで行いました。「訓練がある」などと説明し、数週間や数か月に1度しか帰宅しない生活を続け、女性は約10年間結婚していると思い込んでいました。男性は「仕事のトラブルで示談金が必要」などと言って約2,000万円を騙し取り、詐欺罪で逮捕されました。
事例3:SNSで知り合った異性から2,455万円を騙し取った詐欺グループの逮捕
東京都と横浜市の容疑者らは、SNSで中国籍で韓国に住む架空の男性になりすまし、茨城県の会社員女性から計約2,455万円をだまし取りました。女性とは直接会わず、SNSのやり取りだけで恋愛感情を抱かせ、「海外の空港でかばんを盗まれた」「身柄を拘束されたので司法取引に必要な費用が必要」などと様々な名目でお金を要求していました。
これらの事例から、詐欺罪が成立するためには、単に恋愛感情を利用するだけでなく、嘘の名目でお金を騙し取る行為が必要であることがわかります。また、組織的に行われるケースも多く、手口も巧妙化していることが伺えます。
恋愛詐欺を詐欺罪として立証するのは、実際には非常に難しい場合があります。なぜなら、「初めから騙す意図があった」ことを証明する必要があるからです。
恋愛や結婚に関するトラブルと詐欺罪の境界線は以下のように整理できます。
詐欺罪に該当する可能性が高いケース:
詐欺罪に該当しない可能性が高いケース:
詐欺罪の立証のためには、できるだけ多くの証拠を集めることが重要です。メールやSNSのメッセージ、振込記録、贈り物のレシートなど、やり取りの記録を保存しておくことが有効です。また、相手の発言に矛盾がないか、複数の人と同時期に同様のやり取りをしていないかなどを確認することも大切です。
恋愛詐欺の被害に遭わないためには、以下のような点に注意することが重要です。
1. 個人情報の取り扱いに慎重になる
2. お金の貸し借りに警戒する
3. 対面での確認を重視する
4. 相手の言動に矛盾がないか確認する
5. 信頼できる人に相談する
恋愛詐欺師は被害者の心理的な弱みや孤独感につけ込むことが多いため、常に冷静な判断を心がけ、感情に流されないようにすることが大切です。また、「この話は良すぎる」と感じたら、それは警戒すべきサインかもしれません。
もし恋愛詐欺の被害に遭ってしまった場合、以下の5つのステップで対処することが重要です。
ステップ1:相手との連絡を絶ち、証拠を保全する
ステップ2:警察に被害届を提出する
ステップ3:金融機関に連絡する
ステップ4:専門機関に相談する
ステップ5:心理的なケアを受ける
振り込め詐欺救済法により、犯罪に利用された口座が凍結され、口座にお金が残っていれば返金を受けられる可能性があります。また、複数の被害者が集まって集団訴訟を起こすことで、被害回復の可能性が高まることもあります。
被害に遭った場合は一人で抱え込まず、早めに専門機関に相談することが大切です。また、同様の被害を防ぐため、自分の経験を周囲の人に伝えることも意義があります。
恋愛詐欺が成功する背景には、人間の心理的な特性が関わっています。詐欺師はこれらの心理的な弱点を巧みに利用します。心理学的な観点から恋愛詐欺を予防するためのポイントを解説します。
1. 希少性の原理を理解する
詐欺師は「あなただけに特別な投資話を教える」「限られた人にしか見せていない情報」などと希少性を強調し、被害者の特別感を刺激します。「自分だけが選ばれた」という感覚に疑問を持つことが大切です。
2. 返報性の法則に注意する
人は何かをもらったら返したいと感じる心理(返報性の法則)があります。詐欺師は最初に小さな親切や贈り物をして、後で大きな見返りを求めることがあります。見返りを求められたときに冷静に判断することが重要です。
3. 権威性バイアスを警戒する
「有名企業の役員」「医師」「弁護士」など権威のある肩書きを名乗る詐欺師は多いです。権威ある立場の人の言うことは信じやすい心理(権威性バイアス)がありますが、肩書きを鵜呑みにせず、実際に確認することが大切です。
4. 感情的な判断を避ける
恋愛感情や孤独感、焦りなどの感情が強いときは、冷静な判断が難しくなります。特にお金に関する決断をするときは、感情を一旦脇に置き、第三者の意見を聞くなど客観的な視点を持つことが重要です。
5. ラポール形成の手法を知る
詐欺師は「ラポール(信頼関係)」を形成するために、共通点を強調したり、相手の話に共感したりします。急速に親密になろうとする相手には警戒心を持ち、関係性の進展が自然なペースかどうかを意識することが大切です。
6. FOMO(Fear Of Missing Out)に負けない
「今投資しないと大きなチャンスを逃す」「今決断しないと二度とこの機会はない」など、機会損失への恐怖(FOMO)を煽る手法に注意しましょう。焦らされても冷静に考える時間を確保することが重要です。
心理的な防御策として最も効果的なのは、「この人は本当に信頼できるのか」と常に健全な疑いを持ち続けることです。特に金銭が絡む話になったときは、感情を一旦脇に置き、客観的に状況を分析する習慣をつけましょう。
恋愛詐欺師は被害者の心理的な弱点を見抜き、それに合わせた手口を使ってきます。自分の心理的な傾向を理解し、感情に流されない判断力を養うことが、詐欺被害を防ぐ最大の防御策となります。
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